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最近、会社のスタッフから聞いた話で、はっとさせられたことがありました。
「目先の利益にとらわれて、長期の価値をないがしろにする」。そんな愚かな企業が、なんと多いことかと・・・。
この逸話を、皆さんにもお話ししましょう。
私の会社のAさんは、フィットネス・クラブを探していました。
自宅や会社の周りで、3、4箇所を2週間かけてじっくり回ったそうです。フィットネス・クラブというのは、だいたい長期契約ですから、そうそうおいそれとは選べません。セールス・マネージャーの話を聞いたり、機器や設備を実際に試してみたりして、最も気に入ったところに絞り込みました。
Aさんが最終的にそこに決めた理由は、まず設備の清潔さ。そして、案内してくれたマネージャーの対応が非常にフレンドリーで、丁寧だったこと。また、「今、1年間分を前払いすれば、3カ月間無料」という、プロモーション・キャンペーンをやっていたというのも、決心を固める上で重要なポイントになりました。Aさんは、3日間お試しパスをもらい、実際に設備を使ってみて、他のフィットネス・クラブにも足を運んでみてから、じっくり考えた末に年間契約に踏み切ることにしました。

さて、いよいよ契約するという段になって、Aさんがプロモーション・キャンペーンについて
触れると、「プロモーション期間が終わったから、『3カ月間無料』の特典はもうあげられない」という答え。聞きただしてみると、そのプロモーションは前月中に限っての話で、もう月が変わってしまったからプロモーションは無効だ、ということらしいのです。しかしAさんとしては、説明してもらったときに、「プロモーションに期限がある」なんて、そんな話は聞いていません。それに、月が変わってしまった、とはいっても、たった数日間の話です。せっかく慎重に吟味して、また、『3カ月無料』の特典ももらえるつもりで決めたのに、と思い、「なんとかならないか」と掛け合ってみました。
しかし相手は頑として首を横に振るばかり。Aさんが、はじめに対応してくれたマネージャーに話させてくれといっても、答えはノーでした。すっかり気分を害したAさんは、「もう、2度と来ない」と捨て台詞を残してその場を後にしたということです。
この話を聞いて、私はこう思いました。目先の利益にとらわれて、長期の価値をないがしろにするなんて、なんて愚かなマネージャーだろうと。そのフィットネス・クラブの会費は、月額78ドル。3ヶ月間無料の特典をあげたとして、78×3=234ドルの話です。でも、フィットネス・クラブの顧客というのは、一度入会したらたいていの場合長い間そこに居つくものです。しかも、この場合は、78×12=936ドルの売上げは保証されているのです。
もし、このマネージャーが機転を利かせて、「プロモーション期間は過ぎていますが、お客様には特別に、3カ月間無料の特典をさしあげましょう」と言っていたら、Aさんは快く年会費を支払い、もしかすると来年も、再来年も、そこの会員になっていたかもしれません。しかし、このマネージャーは、目先の利益にこだわるばかりに、Aさんという潜在顧客の生涯価値を損なってしまったのです。
さらに、それだけではありません。Aさんの話を聞いた私たちの頭の中には、「XXというフィットネス・クラブは、なんてひどいところだろう」という印象がこびりついてしまっています。こうして、Aさんに対して、ノーと言ったマネージャーは、Aさんという潜在顧客を失ったばかりではなく、Aさんにつながっている多くの潜在顧客をも、失っていることになるのです。
目先の利益にとらわれて、長期の価値をないがしろにする。顧客接点をつかさどる現場の従業員の中に、
顧客の生涯価値というコンセプトを理解しない人がたくさんいます。今日、多くの企業は、短期の利益ばかりに固執する病に侵されているようです。
石塚しのぶ
近頃のビジネスの風潮で、私が常日頃から腹を立てていることのひとつに、
カスタマー・サービス対応のオートメーション化がある。平たく言うと、コンタクトセンターに電話をかけると、生身の人間ではなく録音されたメッセージが流れ、選択肢に答えたり、リクエストされた情報を打ち込んだり、口に出して言ったりすることによって(自動音声応答システム)、目的の場所に誘導されていくという、あのシステムのことだ。日本ではどれだけポピュラーなのかわからないが、アメリカでは非常に当たり前になってきていて、携帯電話サービスやCATV会社、公益事業を筆頭に、このシステムを導入していない会社の方が珍しいと言ってもいいくらいだ。

このシステム、理屈では便利なようだが現実には不便きわまりない。なんといっても、選択肢が次から次へと枝分かれして、一向に目的が達成される感覚がないこと、生身の人間と話す必要がある時に、そこに到達するまでに時間がかかることなど、顧客を不快にさせる要素で一杯だ。また、私自身の経験からいうと、自分がそもそも電話をしている目的が、与えられた選択肢に当てはまったためしがない。まるで故意に顧客を困らせようとして設計されているみたいだ。それに、選択肢を間違えた場合に、元に戻ろうとしても戻れない、戻れたとしても、コールの最初の選択肢まで戻ってしまうなど、「
ユーザビリティ・スタディ(使いやすさの研究)」なんてものを本当に実践しているのかと訝しく思うくらいに、お粗末なシステムが多い。

腹を立てているのはどうやら私だけではないようで、gethuman.com(ゲットヒューマン・ドット・コム)というウェブサイトを立ち上げた人がいる。Gethumanというと、なんだかチャリティ団体のサイトのような響きだが、名前の意味するところは文字通り、Get Human(生身の人間と話すには)である。なんと、このサイトは、保険、通信、金融など15のカテゴリーにわたり、米国大手企業500社のコンタクト・センターに電話する際に、どうすれば録音メッセージをスキップし、生身の人間(オペレーター)と話せるか、その方法をリストしたデータベースを構築し、掲載しているのだ。TOYOTA、ゼロックス、YAHOO、コストコなど、大手の会社で思いつくところはほとんど完全といっていいほど網羅されている。すごいことを思いついた人がいるものである。
・・・と、確かにこのサイトには感心するし、私個人も大いに利用させてもらっているのだが、ふと考えてみて疑問なのは、この
「顧客主導型」時代に、なぜこんなに多くの企業が反顧客主義もはなはだしい仕組みを利用しているかということである。顧客がコンタクト・センターに電話する時というのは、だいたいにおいて自分の要求が満たされずに怒っている時、憤りを感じている時である。顧客としては、一刻も早く生身の人間と話をして、自分の怒りを吐き出したい、愚痴を聞いてもらいたい、問題を解決したい、と思っているのに、機械に対応されたのでは余計腹も立つというもの。こんなに単純な理論を、大企業の経営者たちがわからないとは理解に苦しむ。
私たち生活者は、常日頃からごまんという莫大な数の広告や、その他マーケティング・メッセージにさらされている。その結果、私たちの多くは、自分に関係ないメッセージ、価値をもたらさないメッセージ、つまり、「聞きたくないこと」はシャットアウトするような体質になってしまっている。顧客が懐疑的、そして閉鎖的になっている今日の市場においては、コンタクト・センターでの対応は企業のブランド価値を顧客に体感してもらう絶好の「
マーケティング好機」であるのだ。ウェブの進展に伴って発展した顧客主導型市場では、「マーケティング」という言葉の意味するところやその活動の範疇も大きく変わってきている。アマゾンの例からもわかるように、テクノロジーは、使いようによっては、顧客体験を飛躍的に向上させる威力をもつものだ。顧客体験の価値をかえって半減させるようなことには使って欲しくないものだ。
石塚しのぶ
イギリス市場シェア、ナンバー・ワンのスーパー、
テスコが米国市場に進出して、話題騒然だ。進出開始の拠点となっているのは、やはり米国におけるライフスタイル・トレンドの発信地であるここ、南カリフォルニア。私のオフィスから北東に車で30分くらいのところにも、進出第一波の店舗がオープンしたので、用事がてらちょっと足を運んでみた。

世界最大の有機/自然食品スーパー、ホール・フーズ・マーケットなどに代表されるライフスタイル・リテーラーについては長年研究してきているが、テスコがアメリカで展開している店舗、「
フレッシュ・アンド・イージー」は、私が慣れ親しんできたいわゆるライフスタイル・リテーラーとも一味違う新しい感覚でつくられた店舗だ。いろいろなアイデアが次々と登場して実験されているアメリカの食品小売市場でも、こういう店舗はまだなく、その新鮮さにはっとさせられた。
店舗に足を踏み入れたときの第一印象は、「え、これが・・・?」と意表をつかれる感じ。いかにもヨーロッパ風の洒落た店舗のつくりを想像していたのだが、店内は簡素きわまりない。画一的な什器の上に商品が箱に詰められたまま並んでいて、フロアーにはディスプレイ・パレットもなく、POS表示もミニマムで、良く言えば整然とした、悪く言えば殺風景な感じだ。
しかし、商品を眺めながら、店の中を回っているうちに、テスコの世界にいつの間にか引き込まれていった。店舗空間そのものは機能性一点ばりなのだが、商品は徹底的にライフスタイル志向なのだ。品揃えはアメリカのスーパーの常識では考えられないほどプライベート・ブランド重視で、パッケージもデザイン性に溢れていてとにかく魅力的だ。「買い物をする」という目的で行ったわけでもないのだが、あれもこれも、と夢中になり、気がついたら買い物カゴが一杯になっていた。

アメリカの食品小売市場は、ウォルマートのスーパーセンターや、ホール・フーズ・マーケットなど新フォーマットの台頭でシェアを脅かされた従来型スーパーが、生き残りの方策と成長の突破口を求めて試行錯誤している激戦市場だ。そこに、ヨーロッパからテスコという新しい波が押し寄せ、この市場にまた大きな渦が巻き起こる予感がする。ヘルシーとエコを前面に押し出した価値提案も、昨今のアメリカの世論にマッチしていて流行りそうだ。今後の動きから目が離せない。
石塚しのぶ
さて問題です。昨年、アメリカのクリスマス商戦中に、総計248億ドルを売り上げたギフト・アイテムとは?
答えは、「
ギフト・カード」だ。一見、クレジットカードのような、プラスチック製のカードで、役割的には商品券と同じ。予め一定の金額がプログラミングされており、受け取り主は指定の店舗でキャッシュ感覚で利用することができる。アメリカでは数年前にちらほら巷に出回るようになったが、あっと言う間にブレイクし、今やリテーラーから、航空会社、レストラン、映画館に至るまで、ありとあらゆる種類の業者が発行するカードが買い求められるようになった。今年の
クリスマス商戦には、昨年をさらに上回る263億ドルを計上することが予測されている。
ギフト・カード・ビジネスの面白いところは、各社が発行している商品券をその店舗内で購入するのとは違って、多種多様な業者が発行しているギフト・カードを、スーパーやドラッグストアなどで選んで買える仕組みが存在する点。例えば、つい最近「
ラルフス」というスーパーに買い物に行った際、「ギフト・カード・モール」というコーナーを見かけた。文字通り、ラルフスの店舗の中に、いろいろな会社のギフト・カードばかりを集めたショッピング・モールがあるような感覚だ。ちょっと見ただけでも、ギャップ(アパレル)、ノードストローム(デパート)、iTunes(オンライン・ミュージック・ストア)など、あるわあるわ・・・。その種類の多いこと、少なく見積もっても、ゆうに100種はある。これは、ギフト・カードによるトランザクションをネットワーク化して管理、運営している会社があるからだ。つまり、これらの会社と契約して、店舗内で「ギフト・カード・モール」の展開を行うリテーラーは、他社のギフト・カードを売るたびにコミッションとしてその売上の何%かを徴収できる仕組みになっているわけだ。

アメリカでは、まるでお歳暮にも似た感覚で、お世話になった人にちょっとしたクリスマス・ギフトを贈る習慣がある。友人ならまだしも、個人的によく知らない人のためにギフト選びをするのはなかなか苦しいものだ。そんな時に、ギフト・カードは便利な逃げ道を与えてくれる。
また、下手に気をもんで「もの」を選ぶよりは、受け手のライフスタイルにマッチした店のギフト・カードを贈ることで、その人に必ず喜んでもらえる、という安心感がある。現金をギフトとして贈ることには、冷たく、ビジネスライクなイメージがあるが、特定の店のギフト・カードには、受け手の個性を考慮したものだという配慮が感じられ、温かみがある。ギフト・カードが人気を博しているのには、こういった背景もあるのだ。

ギフト・カード自体に付加価値をつけて特殊性を出そうという試みも盛んで、今年は、贈り手が自分の好きな写真を表面に印刷してカスタマイズするカード、ボイス・メッセージを録音できるカード、こすると匂いがするカードなど、様々な趣向を凝らしたカードが登場した。このホリデー・シーズン、アメリカ人は、一人当たり平均6枚のギフト・カードを購入するという。
石塚しのぶ